共有ストレージ環境では、複数の ESXi ホストが同じ VMFS データストアにアクセスすると、ロック メカニズムが使用されます。ロック メカニズムは、複数のホストによるメタデータへの同時書き込みを防ぎ、データ破損の発生を阻止します。VMFS は ATS のみのロックおよび ATS+SCSI ロックをサポートしています。ロック メカニズムに関する情報を表示する方法、ATS+SCSI から ATS のみに変更する方法、または ATS+SCSI にダウングレードする方法について説明します。

クラスタ ファイル システムとしての VMFS の詳細については、「vSphere VMFS データストアの概念と操作」を参照してください。

設定と基盤となるストレージのタイプに応じて、VMFS データストアはさまざまなタイプのロック メカニズムを使用できます。VMFS は独占的にアトミック テストを使用して、ロック メカニズム(ATS のみ)を設定できます。あるいは ATS と SCSI 予約の組み合せ (ATS + SCSI) を使用できます。

ATS のみのメカニズム

T10 標準ベースの VAAI 仕様をサポートするストレージ デバイスの場合、VMFS は Hardware Assisted Locking とも呼ばれる ATS ロックを使用します。この ATS アルゴリズムでは、ディスク セクタ単位での異なるロックに対応します。基盤となるストレージが ATS のみのメカニズムをサポートしている場合は、新しくフォーマットされたすべての VMFS5 および VMFS6 データストアは ATS のみのメカニズムを使用し、SCSI 予約は使用しません。

ATS が使用されるマルチ エクステント データストアを作成した場合、vCenter Server は ATS 以外のデバイスを除外します。このフィルタリングによって、ATS プリミティブをサポートするデバイスのみを使用できるようになります。

場合によっては、VMFS5 または VMFS6 データストアに対してデフォルトのロック メカニズムを変更する必要が生じる場合があります。詳細については、ロック メカニズムの ATS+SCSI への変更を参照してください。

注: VMware vSAN 環境を実行している場合、または ATS 専用の VMFS ボリュームを使用している場合は、ATS を無効にしないでください。ATS を無効にすると、ロック メカニズムが利用できなくなるため、停止する可能性があります。詳細については、 VMware のナレッジベースの記事を参照してください。

ATS+SCSI メカニズム

ATS+SCSI メカニズムをサポートする VMFS データストアは、ATS を使用するように構成され、可能な場合は ATS を使用します。ATS が失敗すると、VMFS データストアは SCSI 予約に戻ります。ATS ロックとは対照的に、SCSI 予約では、メタデータの保護を必要とする操作を実行しているときに、ストレージ デバイス全体がロックされます。操作が完了すると、VMFS により予約が解放され、ほかの操作を続行できます。

ATS+SCSI メカニズムを使用するデータストアには、VMFS3 からアップグレードされた VMFS5 データストアがあります。また ATS をサポートしないストレージ デバイス上の新しい VMFS5 または VMFS6 データストアも、ATS+SCSI メカニズムを使用します。

VMFS データストアが SCSI 予約に戻ると、過剰な SCSI 予約によりパフォーマンスの低下が発生する場合があります。

VMFS ロック情報の表示

VMFS データストアが使用するロック メカニズムに関する情報を取得するには、esxcli コマンドを使用します。

前提条件

ESXCLI をインストールします。ESXCLI スタート ガイドを参照してください。トラブルシューティングするには、ESXi Shellesxcli コマンドを実行します。

手順

  • VMFS ロック メカニズムに関する情報を表示するには、次のコマンドを実行します。
    esxcli storage vmfs lockmode list

結果

次の表に、コマンドの出力に含まれる項目を一覧表示します。
表 1. VMFS ロック情報
フィールド 説明
ロック モード データストアのロック構成を示します。
ATS データストアは ATS のみのロック モードを使用するように構成されています。
ATS+SCSI データストアは ATS モードを使用するように構成されています。ATS に障害が発生するか、ATS がサポートされていない場合は、データストアを SCSI に戻すことができます。
ATS upgrade pending データストアは、ATS のみのモードへのオンライン アップグレードを進行中です。
ATS downgrade pending データストアは、ATS+SCSI モードへのオンライン ダウングレードを進行中です。
ATS 互換 データストアは、ATS のみのモード用に構成できるかできないかを示します。
ATS アップグレード モード データストアがサポートするアップグレードのタイプを示します。
None データストアは ATS のみとの互換性がありません。
Online ATS のみのモードへのアップデート中にデータストアを使用できます。
Offline ATS のみのモードへのアップデート中にデータストアを使用できません。
ATS 非互換の理由 データストアが ATS のみと互換性がない場合は、この項目は非互換の理由を示します。

VMFS の ATS のみのロック メカニズム

VMFS データストアで ATS+SCSI ロック メカニズムを使用する場合は、ATS のみのロックに変更することができます。

通常、以前に VMFS3 からアップグレードされた VMFS5 データストアでは、ATS+SCSI ロック メカニズムを継続して使用します。データストアは、ATS が有効なハードウェアにデプロイされている場合、ATS のみのロックへのアップグレードで使用可能です。vSphere 環境に応じて、次のアップグレード モードのいずれかを使用できます。
  • ATS のみへのオンライン アップグレードのメカニズムは、ほとんどの単一のエクステント VMFS5 データストアで使用できます。ホストのいずれかでオンライン アップグレードを実行する間、その他のホストはそのデータストアを使用し続けることができます。
  • ATS のみへのオフライン アップグレードは、複数の物理エクステントをまたぐ VMFS5 データストアで使用する必要があります。複数のエクステントで構成されるデータストアは、オンライン アップグレードでは使用できません。これらのデータストアでは、アップグレードの要求時に、どのホストもデータストアをアクティブに使用しないようにする必要があります。

ATS のみのロックへのアップグレードを開始する前に

ATS のみのロックへオンラインまたはオフライン アップグレードするための環境を準備するには、いくつかの手順を実行する必要があります。

手順

  1. VMFS5 データストアにアクセスするすべてのホストを、最新バージョンの vSphere にアップグレードします。
  2. esxcli storage vmfs lockmode list コマンドを実行して、データストアが、現在のロック メカニズムのアップグレード対象であるかどうかを判断します。
    次のサンプル出力は、データストアがアップグレード対象であることを示します。現在のロック メカニズムと、データストアに対して使用できるアップグレード モードも示します。
    Locking Mode  ATS Compatible  ATS Upgrade Modes
    ------------  --------------  -----------------
    ATS+SCSI           true       Online or Offline
    
  3. データストアで使用できるアップグレード モードに応じて、次のアクションのいずれかを実行します。
    アップグレード モード アクション
    オンライン すべてのホストに、VMFS データストアへの一貫したストレージ接続があることを確認します。
    オフライン データストアをアクティブに使用しているホストが存在しないことを確認します。

ATS のみのタイプへのロック メカニズムのアップグレード

VMFS データストアの互換性が ATS のみの場合は、ATS+SCSI から ATS のみにロック メカニズムをアップグレードできます。

複数のエクステントをまたぐことのないほとんどのデータストアは、オンライン アップグレードで使用可能です。ESXi ホストのいずれかでオンライン アップグレードを実行する間、その他のホストはデータストアを使用し続けることができます。オンライン アップグレードは、すべてのホストでデータストアを閉じた後にのみ完了します。

前提条件

データストアをメンテナンス モードにすることによってロック メカニズムのアップグレードを完了する予定の場合は、Storage DRS を無効にします。前提条件は、オンライン アップグレードにのみ適用されます。

手順

  1. 次のコマンドを実行することにより、ロック メカニズムのアップグレードを実行します。
    esxcli storage vmfs lockmode set -a|--ats -l|--volume-label= VMFS label -u|--volume-uuid= VMFS UUID
  2. オンライン アップグレードの場合は、追加の手順を実行します。
    1. データストアにアクセスできるすべてのホストでデータストアを閉じ、ホストで変更を認識できるようにします。
      次の方法のいずれかを使用できます。
      • データストアをアンマウントおよびマウントします。
      • データストアをメンテナンス モードにしてから、メンテナンス モードを終了します。
    2. 次のコマンドを実行して、データストアのロック モード ステータスが ATS のみに変更されたことを確認します。
      esxcli storage vmfs lockmode list
    3. ロック モードが、ATS UPGRADE PENDING などの別のステータスで表示された場合は、次のコマンドを実行して、アップグレードをまだ処理していないホストを調べます。
      esxcli storage vmfs host list

ロック メカニズムの ATS+SCSI への変更

アトミック テスト アンド セット (ATS) のロックをサポートするデバイスで VMFS5 データストアを作成する場合、データストアは ATS 専用ロック メカニズムを使用します。特定の状況では、ATS 専用ロックを ATS+SCSI にダウングレードにすることが必要になります。

ストレージ デバイスがダウングレードされた場合などに、ATS+SCSI ロック メカニズムへの切り替えが必要になる場合があります。または、ファームウェアのアップデートが失敗して、デバイスで ATS がサポートされなくなった場合も想定されます。

ダウングレード プロセスは、ATS 専用アップグレードと似ています。アップグレードと同様に、ストレージ構成に応じて、オンライン モードまたはオフライン モードでダウングレードを実行できます。

注: VMware vSAN 環境を実行している場合、または ATS 専用の VMFS ボリュームを使用している場合は、ATS を無効にしないでください。ATS を無効にすると、ロック メカニズムが利用できなくなるため、停止する可能性があります。詳細については、 VMware のナレッジベースの記事を参照してください。

手順

  1. 次のコマンドを実行して、ロック メカニズムを ATS+SCSI に変更します。
    esxcli storage vmfs lockmode set -s|--scsi -l|--volume-label= VMFS label -u|--volume-uuid= VMFS UUID
  2. オンライン モードの場合、ホストで変更を認識できるように、データストアへのアクセス権があるすべてのホストでデータストアを終了します。